ツマグロキチョウ(Eurema laeta)
秋型個体の越冬

2005年10月〜2006年3月


[はじめに]
我が家の庭には、毎年秋になるとツマグロキチョウの秋型が姿を現します。
ツマグロキチョウの秋型は生息地を離れて拡散移動することが知られていますが、彼らの食餌植物(カワラケツメイ)は
我が家周辺には自生しておらず、一体何処から移動してくるのか不思議に思っていました。
その後、我が家から約20〜25km離れた北隣の市に、ツマグロキチョウの発生地があることを知りました。
彼らがその発生地からこちらに移動してくるということは調査されていませんが、
私の住む市内の温暖な地域を越冬地としていると考えられます。
それを裏付けるように、昨秋は市内のいろいろな場所で複数の秋型個体を目撃しましたし、また島嶼部でも観察の報告がありました。

庭でのツマグロキチョウの越冬場所は、毎年玄関脇のごく限られた場所に集中しています。
そこにはドウダンツツジとサザンカがあり、下草としてタマシダが密生しています。
南南西向きで日当りが良く、冬場にはアカタテハやムラサキシジミなど成虫越冬の蝶が日光浴する姿も見られます。
その日当りの良いタマシダの葉裏で、下垂の形で静止して冬を過ごしています。
静止する位置は地面から20〜40cmくらい、雨や風にさらされ難い場所を選んでいるようです。
     
※サムネイル画像をクリックすると、大きな画像を見ることができます。

(1)

     画像(1)
  
2005.10.12撮影 

庭での今秋 初見の秋型個体

 まだ静止に入る様子は見られず、ランタナの花などで、吸蜜している

※2004年の初見は10月11日

(2)

     画像(2)
  
2005.10.14撮影 

たぶん(1)とは別個体


 静止の準備に入るが、昼間には、庭の花で吸蜜行動が見られる。

 継続観察の為(2)の個体を
aとする。

(3)

(4)

   画像(3)(4)
  
2005.10.19撮影 

(2)と(3)は同一個体a
(4)は新たに庭に来た個体

 (3)は完全に静止状態に入った。

 (4)は、タマシダにとまるものの、あまり落ち着かない様子で、人の気配などを感じると飛び回っている。

(5)

(6)
    画像(5)(6)
  
2005.10.19撮影

(5)(6)は(4)と同一個体

ちょっとした気配に反応して、静止場所から飛び出し、吸蜜行動も見られる。

(7)

      画像(7)
   
2005.11.1撮影

aとは別個体 (4)と同一個体かは不明


 午前中、タマシダの手前にある石にとまっているのを見つけた。
 しかし、午後には姿を消していた。

(8)

    画像(8)
   
2005.11.4撮影

aとは別個体 翅の傷から(7)とも別個体と思われる

 タマシダの植え込みの上の方にとまっていたが、この日の午後遅くなって葉の裏の下部へ移動していた。
 

(9)

     画像(9)
   
2005.11.10撮影

すでに静止している
aのすぐ右側に静止


 彼らの好む静止場所は共通しているようで、同じ場所にとまりたがるが、やはり先住者に利があるようで、近寄りすぎると翅で叩くようにして、後から来た者を追い払っていた。
 この個体をbとする。

(10)

(11)

   画像(10)(11)
   
2005.11.10撮影

aに追い出されたb


 (10)、(11)ともに同一個体

(12)

     画像(12)
   
2005.11.12撮影

aの上側へとまる

 今度は双方 落ち着いて並んで静止していた。  

(13)

     画像(13)
  
2005.11.20撮影

11.12と同じ状態


 このままabともに静止だろうと思っていたのだが・・

(14)

    画像(14)
  
2005.11.23撮影

abとは別の個体cが50cmほど離れた場所にとまっている


 翌日、aの位置から移動してcの近くにとまっているを見つけたが、すぐに植え込みから飛び出して行ってしまった。
(15)
    画像(15)
  
2005.12.18撮影

今冬、2度目の積雪があった日

 赤で囲んである場所はそれぞれacのとまっている位置。
 cは雪の降る数日前から草むらの奥に移動し、葉の間から翅の一部が見える状態だった。
 
aは翅の角度を時々変える程度で、静止の位置は変わっていない。
 昨年も越冬環境が悪化すると、静止場所を変える行動が見られた.。

(16)

   画像(16)
   2005.12.23撮影


同じ場所で静止を続ける
a

 cはタマシダの奥に移動してしまったようで、姿は確認できない。

(17)

    画像(17)
   
2006.1.11撮影

昨年と同じ場所で静止するa


 多少、翅の角度は変わったものの、位置は同じ。
 昼前から気温が上ったのに伴い、時々触角や脚を動かすのが観察された。

(18)

(19)

(20)

  画像(18)(19)(20)
    2006.1.11撮影

(18)〜(20)は、静止場所を変える個体を1時間ごとに撮影した

 前日、ドウダンツツジの下、地上から10cmの位置に、aとは別の個体がいるのを見つけた。
 11日、11:00頃からゆっくり移動を始めたので、1時間おきに撮影してみた。
 13:00には(20)の位置に移動し、その後はあまり動かず陽にあたり体を暖めている様子だった。
 15:30頃に見ると、姿は見えず、何処か葉の奥に移動したようだった。

(21)

(22)
   画像(21)(22)
   2006.1.12撮影

なぜか玄関の真ん前で日光浴中

 おそらく昨日(1/11)に歩いて移動していた個体と同一と思われる
 そのままだと、踏んでしまいそうなので、タマシダの茂みの中に置いているプランターに移動させた。
 
 個体aは相変わらず、同じ場所で静止しているので、ないしcと思われるが、確証は無い。 もしかしたら別個体かもしれない。
(23)
(24)
   画像(23)(24)
   2006.1.29撮影

寒さと積雪の為、枯れ葉の目だってきたタマシダ(23)と、aとは別の個体(24)

 1/12にプランター移動させた個体がようやく落ち着いて静止したようだ。
 昨年、殆ど移動の様子は観察されなかったのに、今シーズン移動が多いのは、葉枯れなど越冬環境の悪化のせいだろうか。
(25)
(26)
   画像(25)(26)
   2006.2.1撮影

相変わらず、静止を続けるa(25)と、画像(24)と同一個体(26)

 1/12に移動した個体は、体の向きを少し変えたものの、1/29と同じ場所で静止している。
 
aはほぼ同じ状態で静止している。
(27)
(28)
   画像(27)(28)
   2006.2.4撮影

 共に朝10:00頃の画像 この日午後から雪

 (27)はa、(28)は(24)と同一個体。
この日は午後から雪になり、出先から戻ってくると、aの上には雪の乗った葉が覆いかぶさり、(28)は遮る葉も無い場所だったので、翅も体もすっぽりと雪に覆われ、僅かに触角と翅先が見えるだけだった。
翌日、見たらaは葉から落下していた。
(29)
(30)
   画像(29)(30)
   2006.2.7撮影

 2/4の雪で静止位置から落下していたa(29)と、
雪だるま状態だった(28)
 
 aは葉の元の位置近くにによじ登っており、どちらもとりあえず無事だったので安心した。 雪の殆ど降らない地域で越冬する個体群にとって、今シーズンの度重なる積雪は、越冬時の生存率にどのような影響があるのだろうか。
(31)
   画像(31)
   2006.2.12撮影

 雪だるま状態だった(28)が姿を消した。

a
は相変わらず、同じ場所で静止している。 (28)が静止していた場所は、葉枯れがひどく雨や風がしのぎ難い、しかも玄関のすぐ脇なので、再び移動したと思われる。
(32)
    画像(32)
   2006.2.21撮影

 活発に活動し始めた

 日中の気温が上がると活発に飛び始め、写真には撮れなかったが、同時に2頭飛ぶ姿も確認できた。
(32)の個体は翅の色合いや特徴からaとは別の個体と思われるが確証は無い。
家の周囲を盛んに飛び回り、電車の通過など空気の振動に敏感に反応し落ち着きが無い。
(33)
    画像(33)
   2006.2.23撮影

 15:30頃、再びタマシダに静止する個体

 この個体はaが静止していた場所とほぼ同じ場所にとまっていた。
 翅の色や特徴はaによく似ているが、同一個体と確認出来なかった。
 翌日にはもう姿を消していた。

 
(34)
(35)
(36)
(37)
  画像(35)(36)(37)
  2006.3.8撮影
  画像(34)
  
2006.3.24撮影


 裏山の標高50m程の地点で、多数の個体を観察

 2/23を最後に自宅の庭で、姿を見なくなったので、昨年、ツマグロキチョウを見た裏山の農道へ上ってみた(時間帯は11:00頃)
 画像(34)付近で、複数の個体が飛んでいるのを見つけた。ここは狭い農道脇の南南西向きの日当りのよい崖地。道路から下は農地、その下には住宅地で、海に向かって開けている。風化した花崗岩の崖に止まったり飛んだりしながら10頭余が群れていた。
 交尾こそ確認出来なかったが、求愛行動も見られた。

(38)
(39)
(40)
(41)
 画(38)(39)(40)(41)
 2006.3.8撮影

 彼らが集合している場所は画像(34)の幅10〜15mほどの場所で、全長1km余りの農道のごく限られた地域である。
そこから少しでも離れてしまうと、農道沿いではツマグロキチョウの姿は全く観察できなかった。
 この場所が、繁殖地に戻る前の集合場所になっているということも考えられる。
※画像(36)以外、(35)〜(40)の画像は全て別個体。

 裏山での観察を終えて、自宅に戻ると画像(41)の個体がタマシダで静止しているのを見つけた。
(42)
(43)
   画像(42)(43)
   2006.3.15撮影

 自宅庭にて、再び観察
(42)と(43)は同一個体
 
 3/8に庭に来ていた個体は翌日にはいなくなっていたが、この日昼前再び姿を見せた。
 3/8のものと同じ個体かどうかは、確認出来ない。
 この日、夕方まで飛んだりとまったりしながら、庭に留まっていたが、翌日には姿を消した。
(44)
   画像(44)
   2006.3.24撮影

 再び画像(34)の場所へ
 
 3/16以降、自宅の庭で姿を見ることはなくなった。
 3/8と同じ時間帯に再び裏山へ上ってみると、10頭余が集合していた場所では、1頭だけが観察できたが、他は皆姿を消していた。
[観察を終えて]
自宅では3月15日、裏山では3月24日が、この地域でツマグロキチョウが観察できた最終日でした。
今シーズンの観察で、とても興味深かったのは、昨年あまり見ることの無かった越冬中の移動の様子を観察できた事、
裏山の特定の場所に、越冬明けの個体が集まっているのを観察できた事です。
また、複数の個体の集まる場所で、交尾には至らないものの求愛行動が見ることができました。
今回の観察で、発生地へ集団で戻るのか、配偶行動はどの時点で行われるのか等、新たな疑問も出てきて興味は尽きません。
反省すべき点は、マーキングを行わなかった為、個体の識別が非常に困難だったことです。
また、裏山におけるフィールド観察も。もっと回数を重ねるべきだったと痛感しました。
来シーズンの観察に向け、そうした部分も含め工夫してみたいと思っています。